「日本語非母語の聴解コーパス」作成のための調査方法

「日本語非母語話者の聴解コーパス」には,「A 独話型聴解調査」と「B 対話型聴解調査」の2種類の調査があります。

データ収集者は,調査協力者が聞きたいことや聞く必要があることなどを考慮して,どちらの調査を行うかを決めて下さい。

A 独話型聴解調査の方法

以下の内容はPDF版をダウンロードして読むこともできます。(こちら)

[A 独話型] 1.コーパス作成のための調査方法の概要

データ収集者はここに示す調査方法に従って調査を行う。調査方法を次の項目に分けて説明する。

[A 独話型] 2.調査当日までにする準備

[A 独話型] 3.調査当日にすること

[A 独話型] 4.調査をうまく進めるためのポイント

[A 独話型] 付属資料

資料1:協力者の方へ
  • 資料1-1:協力者の方へ(日本語版)[PDF]
  • 資料1-2:協力者の方へ(英語版)[PDF]
  • 資料1-3:協力者の方へ(中国語版)[PDF]
  • 資料1-4:協力者の方へ(韓国語版)[PDF]
  • 資料1-5:協力者の方へ(ミャンマー語版)[PDF]
  • 資料1-6:協力者の方へ(ロシア語版)[PDF]
  • 資料1-7:協力者の方へ(ベトナム語版)[PDF]
  • 資料1-8:協力者の方へ(インドネシア語版)[PDF]
資料2:通訳者の方へ
  • 資料2-1:通訳者の方へ(日本語版)[PDF]
  • 資料2-2:通訳者の方へ(英語版)[PDF]
  • 資料2-3:通訳者の方へ(中国語版)[PDF]
  • 資料2-4:通訳者の方へ(韓国語版)[PDF]
  • 資料2-5:通訳者の方へ(ミャンマー語版)[PDF]
  • 資料2-6:通訳者の方へ(ロシア語版)[PDF]
  • 資料2-7:通訳者の方へ(ベトナム語版)[PDF]
  • 資料2-8:通訳者の方へ(インドネシア語版)[PDF]
資料3:調査の前の説明
  • 資料3-1:調査の前の説明(日本語版)[PDF]
  • 資料3-2:調査の前の説明(英語版)[PDF]
  • 資料3-3:調査の前の説明(中国語版)[PDF]
  • 資料3-4:調査の前の説明(韓国語版)[PDF]
  • 資料3-5:調査の前の説明(ミャンマー語版)[PDF]
  • 資料3-6:調査の前の説明(ロシア語版)[PDF]
  • 資料3-7:調査の前の説明(ベトナム語版)[PDF]
  • 資料3-8:調査の前の説明(インドネシア語版)[PDF]
資料4:練習用の聞く素材例
  • 資料4-1:練習用の聞く素材例(やさしいもの)
  • 資料4-2:練習用の聞く素材例(少し難しいもの)
  • 資料4-3:練習用の聞く素材例(難しいもの)

[A 独話型] 書類と調査方法説明ビデオ

書類1:調査協力承諾書
  • 書類1-1:調査協力承諾書(日本語版)[PDF]
  • 書類1-2:調査協力承諾書(英語版)[PDF]
  • 書類1-3:調査協力承諾書(中国語版)[PDF]
  • 書類1-4:調査協力承諾書(韓国語版)[PDF]
  • 書類1-5:調査協力承諾書(ミャンマー語版)[PDF]
  • 書類1-6:調査協力承諾書(ロシア語版)[PDF]
  • 書類1-7:調査協力承諾書(ベトナム語版)[PDF]
  • 書類1-8:調査協力承諾書(インドネシア語版)[PDF]
書類2:背景調査票
  • 書類2-1:背景調査票(日本語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-2:背景調査票(英語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-3:背景調査票(中国語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-4:背景調査票(韓国語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-5:背景調査票(ミャンマー語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-6:背景調査票(ロシア語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-7:背景調査票(ベトナム語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-8:背景調査票(インドネシア語版)[PDF][EXCEL]
調査方法説明ビデオ:独話聴解調査「駅のアナウンス」

[A 独話型] 2.調査当日までにする準備

2.1 協力者探し

日本語非母語話者の協力者を探す。協力者は自身の理解過程を分析的に話せそうな人が望ましい。

2.2 書類の準備

次の2つの書類を準備する。

(1)調査協力承諾書(書類1) 2通

調査協力承諾書には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。

(2)背景調査票(書類2) 1通

背景調査票には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。

2.3 協力者に対する調査の説明

次の4点のようなことについて,協力者に説明する。説明は直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。

(1) 調査の内容

「協力者の方へ」(資料1)を協力者に見せて,調査の内容について説明する。

(2) 調査協力承諾書への署名

「調査協力承諾書」(書類1)を協力者に読んでもらう。承諾した場合,調査協力承諾書2通に署名してもらう。協力者には署名したものを調査当日に持ってきてもらう。それができない場合には,調査当日に署名してもらう。

署名をした1通はデータ収集者が回収し,もう1通は協力者に渡す。ただし,協力者が調査協力承諾書の所有を希望しない場合には,署名は1通だけでよい。

(3) 聞く素材

聞く素材は,協力者自身に選んでもらうため,素材の選び方について説明する。協力者には調査当日に初めて素材を聞いてもらう必要があるため,事前に素材を聞かないように伝えておく。

(4) 背景調査票への記入

「背景調査票」(書類2)を調査日より前に協力者に送り,記入しておいてもらう。それができない場合には,調査当日に記入してもらう。

2.4 調査をする日時と場所の決定

データ収集者は協力者と相談して,調査をする日時と場所を決める。調査のときの発話はICレコーダーで録音するため,エアコンの音や,壁による音の反響などに配慮しつつ,できるだけ雑音が少ない静かな部屋を選ぶ。

可能であれば,データ収集者は協力者と調査日よりも前に顔合わせをし,信頼関係を作っておくと,調査がやりやすくなる。

2.5 協力者による聞く素材の選定

聞く素材は,(1)から(3)のすべての条件を満たすものを協力者自身に選んでもらう。

(1) 協力者が聞きたいものや聞く必要のあるもの

協力者に聞きたいものや聞く必要のあるものを選んでもらう。データ収集者が選ぶのではない。協力者には,非母語話者向けに作られた日本語学習用教材は選ばないようにしてもらう。

協力者が自分で適切な聞く素材を見つけるのが難しい場合は,データ収集者が助言してもよい。

(2) 協力者の聴解能力にふさわしいもの

聞く素材は協力者の聴解能力にふさわしいものを選んでもらう。

難しすぎると,「わかりません」のような発話ばかりになり,理解過程が把握できなくなる。反対に簡単すぎると,すべてを瞬時に理解するため,知らない語句の意味をどのように推測したかや,解釈がどのように変わっていったかなどについての発話が少なくなる。協力者の発話は,聞く素材で発話されたことをそのまま翻訳したようなものになり,理解過程が把握できなくなる。

(3) ウェブサイトでの長期間の公開に支障がないもの

この聴解コーパスは,素材とそれを聞いたときの発話を並べて示すものであり,今後,長期間ウェブサイトで公開される。そのため,聞く素材はウェブサイトで長期間公開しても支障がなさそうなものを選んでもらう。たとえば,著作権フリーのものや,ウェブサイトで長期間視聴できそうなものを選んでもらう。

2.6 意味や訳語がわからない語句の下調べ

データ収集者は,素材をよく聞き,語句の意味や言われている内容について不明な点があれば調べ,素材の内容の理解に努める。

協力者には,理解過程を母語あるいは母語に準じる言語で少しずつ話してもらう。そのため,通訳者を介さず,データ収集者が直接調査を行う場合は,調査で使用する言語で何と言うかわからない語句などがあれば,訳語を調べておく。

2.7 協力者にとって難しいと思われる箇所の予測

あらかじめ協力者にとって理解するのが難しいと思われる箇所を予測しておく。その箇所を協力者がどのように理解するかを予測したうえで,協力者が理解した内容を確認するためにはどのように質問すればよいかを考えておく。

たとえば,次のような箇所で理解するのが難しいと考えられる。(1)から(5)の「予測される発話の例」は,調査で協力者が母語で発話している箇所とする。

(1) 難しそうな語句
  • 聞く素材の例:大阪城が舞台になっているんです。
  • 予測される発話の例:「大阪城が「ブタイ」になっているんです。」(「ブタイ」の部分は日本語で言った)
  • 予測される発話に対する質問の例:「「ブタイ」は中国語(学習者の母語)で何ですか。」
(2) 説明されなかった語句
  • 聞く素材の例:死ぬほど暑かったんです。
  • 予測される発話の例:「暑かったです。」
  • 予測される発話に対する質問の例:「どのくらい暑かったと言っていましたか。」
(3) 省略された主語
  • 聞く素材の例:明日出せば大丈夫って。
  • 予測される発話の例:「明日出せば大丈夫です。」
  • 予測される発話に対する質問の例:「「明日出せば大丈夫だ」と誰が言いましたか。」
(4) 指示語の内容
  • 聞く素材の例:この点については,のちほどゲストに伺います。
  • 予測される発話の例:「これについては,ゲストに聞きます。」
  • 予測される発話に対する質問の例:「これって何ですか。」
(5) 文化背景に関する知識
  • 聞く素材の例:牛乳は嫌いですね。給食で困りました。
  • 予測される発話の例:「牛乳が嫌いです。昼ごはんで困りました。」
  • 予測される発話に対する質問の例:「どうして昼ごはんで困ったんだと思いますか。」

2.8 通訳者との打ち合わせ

データ収集者が協力者の母語を十分に運用できない場合には,通訳者を手配して参加してもらう。通訳者は会話能力だけではなく,日本語の講義などを正確に理解できる能力がある人を選ぶ。同時通訳に近い形で通訳できる人が望ましい。

通訳者が参加する調査の場合,次の3点について打ち合わせをする。打ち合わせは直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。聞く素材は事前に通訳者に送る。

(1) 調査の目的や方法の説明

通訳者に「通訳者の方へ」(資料2)を渡してその内容を説明し,調査の目的や方法,通訳するときの注意点をよく理解してもらう。

(2) どのような質問を考えているかの説明

データ収集者は質問をする可能性のある箇所について,質問する内容を通訳者に説明する。

(3) 通訳者がする準備の説明

通訳者には事前に素材をよく聞いてもらい,通訳する言語で何と言うかわからない語句などがあれば,調査当日までに調べておいてもらう。

2.9 機器や聞く素材などの準備

次のようなことを準備する。

(1) 機器の準備

準備する機器は次のようなものである。

  • ・ICレコーダー:1台(可能なら2台)
  • ・ピンマイク(モノラルマイク):2本
  • ・2本のピンマイクを接続するためのプラグアダプター(例:SONYプラグアダプターPC-239S):1個
  • ・ICレコーダー用の予備の電池:数個
  • ・パソコンやタブレット:1台

調査のときの発話はICレコーダーで録音する。小さいつぶやきなども明瞭に録音できるようにピンマイクを使用する。協力者とデータ収集者の2人の音声を1台のICレコーダーに録音するために,2本のピンマイクをプラグアダプターに接続する。そのプラグアダプターをICレコーダーのマイク端子に接続する。

予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,可能ならICレコーダーを2台準備する。

(2) 協力者が練習のときに使用する聞く素材

データ収集者は,協力者が本番前の練習のときに使用する聞く素材として,実際に調査で使用するものと同じジャンルで,同じぐらいのレベルの聞く素材を準備する。この調査方法に付いている練習用の聞く素材(資料4)を使ってもよい。

(3) 協力者が調査で聞く素材(音声ファイルなど)

データ収集者は,協力者のために聞く素材となる映像ファイルなどとそれを聞くための機材(パソコンなど)を準備する。これとは別に,何かあったときのために,USBなどに予備のファイルを用意しておくとよい。

(4) 飲み物などの準備

休憩時間に気分転換をしてもらうために,可能なら,飲み物やお菓子などを準備する。

[A 独話型] 3.調査当日にすること

3.1 調査の流れ

調査の流れは次のとおりである。

(1) 「調査協力承諾書」(書類1)と「背景調査票」(書類2)を回収する

事前に協力者に渡してあった「調査協力承諾書」(書類1)と「背景調査票」(書類2)を回収する。署名や記入がまだされていないときには,その場でしてもらう。

(2) 調査の手順を説明する

協力者に「調査の前の説明」(資料3)を渡し,目を通してもらう。「調査の前の説明」には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使って説明する。

(3) 調査方法説明ビデオを見てもらう

協力者が調査方法説明ビデオを事前に見ていない場合は,調査方法説明ビデオを見てもらい,聞きながらどのように発話するかを理解してもらう。

(4) 練習してもらう

協力者に調査に慣れてもらうために,練習用の聞く素材を使って初めに練習してもらう。練習用の聞く素材としては,調査で使用する素材と似ているが,調査で使用しない素材を使うのがよい。よい素材がない場合は,「練習用の聞く素材例」(資料4)を使ってもよい。練習の段階から調査のすべての発話をICレコーダーで録音する。

データ収集者は協力者の素材の聞き方や発話の仕方が適切に行われるように助言する。特に,協力者が聞いたことを忘れてしまうくらい長い時間映像や音声を止めない場合は,覚えていられる時間で映像や音声を止めてもらうようにする。協力者が調査方法が理解できたかどうかを,確認するとよい。協力者が発話することに慣れたら,調査を開始する。

(5) 調査を開始する

素材を普段聞くときと同じように聞きながら,(4)で練習した方法で発話してもらう。

(6) 休憩を挟む

協力者や通訳者がそれほど疲れているように見えなくても,集中力がとぎれないように1時間ほど調査をしたら休憩を入れるようにする。心理的にも肉体的にも負担をかけないようにして,質のよいデータをとることを心がける。

(7) 聞き終わった後の感想を話してもらう

可能なら,協力者に聞き終わった後の感想を話してもらう。

3.2 座る位置と機器の配置

(1) 座る位置

協力者は聞く素材の再生や停止を自分で操作できる位置に座る。データ収集者は協力者の隣に並んで座る。通訳者が参加する場合には,協力者を真ん中に挟むようにしてデータ収集者,協力者,通訳者の3人が並んで座り,聞く素材がビデオの場合はそれぞれがビデオ画面を見られるようにしておく。

(2) ピンマイクの配置

通訳者が参加しない調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本をデータ収集者の口の近くにつける。

通訳者が参加する調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本を通訳者の口の近くにつける。この場合,データ収集者にはピンマイクがつかないが,データ収集者が大きめの声で話すことで2本のピンマイクに音声が録音される。

(3) ICレコーダーの配置

ピンマイクを付けたICレコーダーは調査の邪魔にならないような場所に配置する。ICレコーダーが2台あるときには,予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,ピンマイクが付いていないほうのICレコーダーを,すべての発話が録音できるようなところに配置する。

3.3 調査の方法

協力者に素材を聞いてもらい,それと同時に理解過程を,母語あるいは母語に準じる言語で少しずつ話してもらう。データ収集者は協力者に聞く素材の内容を確認する質問をし,答えてもらう。aからfの「発話の例」は,調査では協力者が母語で発話している。

調査は次のように行う。

(1) 素材を聞いてもらい理解過程を話してもらう

聞いてもらうことは,次のようなことである。

a. 聞く素材で話されている内容

聞く素材で話されている内容について理解したことを,たとえば,次のように話してもらう。

  • 聞く素材の例:現在,中央線,本町駅と市役所前駅間で運転を
  • 発話の例:「今,本町駅と市役所前駅で,運転…。」
b. 頭の中で考えたこと

そのとき聞いている箇所について感じたことを話してもらう。

  • 聞く素材の例:現在,中央線,本町駅と市役所前駅間で運転を見合わせております。
  • 発話の例:「自動音声じゃないアナウンスです。何かあったのかな。」
c. 知らない語句があったときに推測したこと

知らない語句があったときに,その意味をどのように推測したかについて話してもらう。

  • 聞く素材の例:現在,中央線,本町駅と市役所前駅間で運転を見合わせております。
  • 発話の例:「今,本町駅と市役所前駅で,運転しています。「合わせる」は一緒にすることです。だから,2本の電車が1本の電車になって運転すると思います。」
d. わからないことや判断に迷っていること

わからないことや判断に迷っていることなどもそのまま話してもらう。

  • 聞く素材の例:そのため,この電車は本町駅までの折り返し運転を行います。
  • 発話の例:「この電車は本町駅まで,『オリカエシウンテン』という言葉は聞いたことがありませんが,運転すると言っています。」
e. 聞いている箇所について関連して思い出したこと

そのとき聞いている箇所に関連して思い出したことなどを話してもらう。

  • 聞く素材の例:そのため,この電車は本町駅までの折り返し運転を行います。
  • 発話の例:「この前,友達と電車を待っているとき,電車が遅れてきました。そのとき,友達は『人身事故があった』と教えてくれましたから,『人身事故』は知っています。『オリカエシウンテン』も『人身事故』のようなものかな。」
f. 解釈の変更

既に聞いた部分の意味の解釈が変わったときには,聞き進めるにつれてどのように変わってきたかについて話してもらう。

  • 聞く素材の例:そのため,この電車は本町駅までの折り返し運転を行います。次の直通中野行きは,本町止まりとなり,中野方面にはまいりません。お急ぎのところご迷惑をおかけいたします。
  • 発話の例:「この電車は本町駅まで運転します。電車は本町で止まります。さっき,運転すると思いましたが,謝っているので,電車が止まって遅くなるんだと思います。」

理解したことを話してもらうときには,聞く素材の1文単位で言ってもらう必要はなく,発話しやすい語句レベルに区切って言ってもらってもよい。

協力者が沈黙している時間が長いときには,「何を考えていますか」「どこが難しいですか」などと話しかけるようにして,頭の中で考えていることをいろいろ話してもらう。

(2) 質問に答えてもらう

協力者の発話だけではどのような意味に理解したかがよくわからないときや,協力者が言及しなかった点があるとき,それを確認するために協力者に質問をし,答えてもらう。協力者は理解したことすべてを話すわけではないため,データ収集者は協力者の発話をよく聞いて柔軟に対応する。

聞く素材の中で協力者にとって難しいと思われる箇所を事前に予測しておくが,それについての質問は協力者の反応を見ながら,その場で臨機応変に行う。質問は協力者の思考を妨げないように状況をよく見て行う。

データ収集者が聞く素材の中の語句に言及するときは,聞く素材を巻き戻して聞いてもらう。巻き戻しが難しい場合は,その語句を言ってもよい。

協力者が自分の理解したことを説明したときに,「なぜそう思いましたか」のように質問をして,協力者の理解過程を明らかにするように心がける。協力者が間違ったことを言ったときだけではなく,難しいと思われた箇所について正しく理解できたときにもそのように質問する。

(3) 通訳者にデータ収集者と協力者の発話をすべて通訳してもらう

通訳者が参加する調査の場合,発話をすべて同時通訳に近い形で通訳してもらう。

[A 独話型] 4.調査をうまく進めるためのポイント

4.1  話しやすい雰囲気をつくる

調査はデータ収集者と協力者が基本的に1対1で行うため,友好的な関係が築けるように心がける。調査の本番前に行う練習のときには,「それでいいですよ」「上手ですね」のように,肯定的で勇気づけることばをかけるようにし,安心して発話してもらう環境をつくる。

4.2 調査の本番前の練習を効果的に行う

協力者にとって素材を聞きながら同時に理解したことを言語化するのは慣れるまで難しいこともある。そのため,調査の前の練習は大切である。協力者がする発話のモデルを示すときには,調査方法説明ビデオを活用する。

4.3 聞く素材で話されている内容以外のこともたくさん話してもらう

協力者が聞く素材で話されている内容を正確に翻訳することだけに集中して,翻訳以外の発話,たとえば,推測していることやわからないことなどをほとんど言わないことがある。そのようなときには,「この調査は正確に翻訳することが目的ではありません。○○さん(協力者の名前)の理解過程をそのまま知りたいと思っています。ですから,迷ったり,推測したりしていることをそのまま話してください」のように声をかける。

4.4 調査に影響を与えるようなことはしない

データ収集者の発言や行動が調査に影響を与えないように細心の注意を払う。たとえば,質問の答えのヒントになることを言ったり,協力者が間違ったことを言ったときに,間違ったと気づかせるような反応をしたりしない。通訳者にも気をつけてもらう。

4.5 練習のための予備調査をする

データ収集者は,コーパスとして使えるようなよいデータを収集するために,調査方法を十分把握したうえで,練習のための予備調査をある程度行うとよい。




B 対話型聴解調査の方法

以下の内容はPDF版をダウンロードして読むこともできます。(こちら)

[B 対話型] 1.コーパス作成のための調査方法の概要

データ収集者はここに示す調査方法に従って調査を行う。調査方法を次の項目に分けて説明する。

[B 対話型] 2.調査当日までにする準備

[B 対話型] 3.調査当日にすること

[B 対話型] 4.調査をうまく進めるためのポイント

[B 対話型] 付属資料

資料1:協力者の方へ
  • 資料1-1:協力者の方へ(日本語版)[PDF]
  • 資料1-2:協力者の方へ(英語版)[PDF]
  • 資料1-3:協力者の方へ(中国語版)[PDF]
  • 資料1-4:協力者の方へ(韓国語版)[PDF]
  • 資料1-5:協力者の方へ(ミャンマー語版)[PDF]
  • 資料1-6:協力者の方へ(ロシア語版)[PDF]
  • 資料1-7:協力者の方へ(ベトナム語版)[PDF]
  • 資料1-8:協力者の方へ(インドネシア語版)[PDF]
資料2:通訳者の方へ
  • 資料2-1:通訳者の方へ(日本語版)[PDF]
  • 資料2-2:通訳者の方へ(英語版)[PDF]
  • 資料2-3:通訳者の方へ(中国語版)[PDF]
  • 資料2-4:通訳者の方へ(韓国語版)[PDF]
  • 資料2-5:通訳者の方へ(ミャンマー語版)[PDF]
  • 資料2-6:通訳者の方へ(ロシア語版)[PDF]
  • 資料2-7:通訳者の方へ(ベトナム語版)[PDF]
  • 資料2-8:通訳者の方へ(インドネシア語版)[PDF]
資料3:調査の前の説明
  • 資料3-1:調査の前の説明(日本語版)[PDF]
  • 資料3-2:調査の前の説明(英語版)[PDF]
  • 資料3-3:調査の前の説明(中国語版)[PDF]
  • 資料3-4:調査の前の説明(韓国語版)[PDF]
  • 資料3-5:調査の前の説明(ミャンマー語版)[PDF]
  • 資料3-6:調査の前の説明(ロシア語版)[PDF]
  • 資料3-7:調査の前の説明(ベトナム語版)[PDF]
  • 資料3-8:調査の前の説明(インドネシア語版)[PDF]
資料4:会話相手の方へ
  • 資料4:会話相手の方へ(日本語版のみ)[PDF]

[B 対話型] 書類と調査方法説明ビデオ

書類1:調査協力承諾書
  • 書類1-1:調査協力承諾書(日本語版)[PDF]
  • 書類1-2:調査協力承諾書(英語版)[PDF]
  • 書類1-3:調査協力承諾書(中国語版)[PDF]
  • 書類1-4:調査協力承諾書(韓国語版)[PDF]
  • 書類1-5:調査協力承諾書(ミャンマー語版)[PDF]
  • 書類1-6:調査協力承諾書(ロシア語版)[PDF]
  • 書類1-7:調査協力承諾書(ベトナム語版)[PDF]
  • 書類1-8:調査協力承諾書(インドネシア語版)[PDF]
書類2:背景調査票
  • 書類2-1:背景調査票(日本語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-2:背景調査票(英語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-3:背景調査票(中国語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-4:背景調査票(韓国語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-5:背景調査票(ミャンマー語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-6:背景調査票(ロシア語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-7:背景調査票(ベトナム語版)[PDF][EXCEL]
  • 書類2-8:背景調査票(インドネシア語版)[PDF][EXCEL]
書類3:会話相手用調査協力承諾書
  • 書類3:会話相手用調査協力承諾書(日本語版のみ)[PDF]
調査方法説明ビデオ:対話聴解調査「雑談」

[B 対話型] 2.調査当日までにする準備

2.1 協力者探し

日本語非母語話者の協力者を探す。協力者は自身の理解過程を分析的に話せそうな人が望ましい。

2.2 書類の準備

次の2つの書類を準備する。

(1)調査協力承諾書(書類1) 2通

調査協力承諾書には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。

(2)背景調査票(書類2) 1通

背景調査票には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。

2.3 協力者に対する調査の説明

次の4点のようなことについて,協力者に説明をする。説明は直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。

(1) 調査の内容

「協力者の方へ」(資料1)を協力者に見せて,調査の内容について説明する。

(2) 調査協力承諾書への署名

「調査協力承諾書」(書類1)を協力者に読んでもらう。承諾した場合,調査協力承諾書2通に署名してもらう。協力者には署名したものを調査当日に持ってきてもらう。それができない場合には,調査当日に署名してもらう。

署名をした1通はデータ収集者が回収し,もう1通は協力者に渡す。ただし,協力者が調査協力承諾書の所有を希望しない場合には,署名は1通だけでよい。

(3) 聞く素材

対話型聴解調査では,協力者自身に当事者となって会話をしてもらう。その会話相手の発話が後の調査で聞く素材となることを説明する。このとき,聞く素材としての会話相手の発話が,協力者の聞きたいものや聞く必要のあるものとなるように,会話の場面についての希望を協力者に聞いておくとよい。
準備の詳細は,「2.7 聞く素材としての会話を録画するための準備」で述べる。また,聞く素材としての会話を録画する方法については「3.2 聞く素材としての会話を録画する方法」で述べる。

(4) 背景調査票への記入

「背景調査票」(書類2)を調査日より前に協力者に送り,記入しておいてもらう。それができない場合には,調査当日に記入してもらう。

2.4 調査をする日時と場所の決定

データ収集者は協力者と相談して,調査をする日時と場所を決める。調査のときの発話はICレコーダーで録音するため,エアコンの音や,壁による音の反響などに配慮しつつ,できるだけ雑音が少ない静かな部屋を選ぶ。

可能であれば,データ収集者は協力者と調査日よりも前に顔合わせをし,信頼関係を作っておくと,調査がやりやすくなる。

2.5 通訳者との打ち合わせ

データ収集者が協力者の母語を十分に運用できない場合には,通訳者を手配して参加してもらう。通訳者は会話を正確に理解できる能力がある人を選ぶ。同時通訳に近い形で通訳できる人が望ましい。

通訳者に「通訳者の方へ」(資料2)を渡してその内容を説明し,調査の目的や方法,通訳するときの注意点をよく理解してもらう。打ち合わせは直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。

2.6 機器材などの準備

次のようなことを準備する。

(1) 機器の準備

準備する機器は次のようなものである。

  • ・ICレコーダー:1台(可能なら2台)
  • ・ピンマイク(モノラルマイク):2本
  • ・2本のピンマイクを接続するためのプラグアダプター(例:SONYプラグアダプターPC-239S):1個
  • ・ICレコーダー用の予備の電池:数個
  • ・パソコンやタブレット:1台
  • ・ビデオカメラ:1台
  • ・三脚:1台

調査のときの発話はICレコーダーで録音する。小さいつぶやきなども明瞭に録音できるようにピンマイクを使用する。協力者とデータ収集者の2人の音声を1台のICレコーダーに録音するために,2本のピンマイクをプラグアダプターに接続する。そのプラグアダプターをICレコーダーのマイク端子に接続する。

予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,可能ならICレコーダーを2台準備する。

(2) 飲み物などの準備

休憩時間に気分転換をしてもらうために,可能なら,飲み物やお菓子などを準備する。

2.7 聞く素材としての会話を録画するための準備

協力者自身に当事者となって会話をしてもらい,その会話を会話相手の上半身が映るようにビデオ録画する。この場合,聞く素材としての会話の録画は調査当日に行うが,事前に(1)から(4)のような準備が必要である。

(1) 会話相手探し

協力者の会話相手を探す。会話相手は協力者が希望する場合での会話ができる人で,日本語非母語話者相手でも不自然な日本語になったり外国語を混ぜたりせず,できるだけ自然な話し方のできる人が望ましい。

(2) 書類の準備

次の書類を準備する。

 ・会話相手用調査協力承諾書(書類3) 2通

会話相手用承諾書は日本語版のみである。

(3) 会話相手に対する調査の目的や方法の説明

会話相手に「会話相手の方へ」(資料5)を渡してその内容を説明し,調査の目的や方法,会話をするときの注意点をよく理解してもらう。

(4) 会話相手用調査協力承諾書への署名

会話相手に「会話相手用調協力査承諾書」(書類3)を読んでもらう。承諾した場合,「会話相手用調査協力承諾書」2通に署名してもらう。協力者には署名したものを調査当日に持ってきてもらう。それができない場合には,調査当日に署名してもらう。

署名をした1通はデータ収集者が回収する。もう1通は協力者に渡す。ただし,協力者が調査協力承諾書の所有を希望しない場合には,署名は1通だけでよい。

[B 対話型] 3.調査当日にすること

3.1 調査の流れ

調査の流れは次のとおりである。

(1) 「調査協力承諾書」(書類1)と「背景調査票」(書類2)を回収する

事前に協力者に渡してあった「調査協力承諾書」(書類1)と「背景調査票」(書類2)を回収する。署名や記入がまだされていないときには,その場でしてもらう。

(2) 「会話相手用調査協力承諾書」(書類3)を回収する

事前に会話相手に渡してあった「会話相手用調査協力承諾書」(書類3)を回収する。署名がまだされていないときには,その場でしてもらう。

(3) 聞く素材としての会話の録画をする

協力者と会話相手に会話をしてもらう。録画の際はカメラを会話相手だけに向け,協力者は写さない。録画した会話は(7)の調査で使用する「聞く素材」となる。また,(6)の練習のため,データ収集者と協力者の短い会話も録画しておく。

(4) 調査の手順を説明する

協力者に「調査の前の説明」(資料3)を渡し,目を通してもらう。「調査の前の説明」には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使って説明する。

(5) 調査方法説明ビデオを見てもらう

協力者が調査方法説明ビデオを事前に見ていない場合は,調査方法説明ビデオを見てもらい,聞きながらどのように発話するかを理解してもらう。

(6) 練習してもらう

協力者に調査に慣れてもらうために,初めに練習してもらう。練習用の聞く資材は,調査で使用しない素材を使うのがよい。そのため,(3)で練習用に録画したデータ収集者と協力者との短い会話を使用する。聞く素材は会話相手の発話部分のみで,協力者の日本語の発話箇所は聞く素材ではない。練習もすべての発話をICレコーダーで録音する。

データ収集者は協力者の素材の聞き方や発話の仕方が適切に行われるように助言する。特に協力者が聞いたことを忘れてしまうくらい長い時間,映像や音声を止めない場合,覚えていられる時間で映像や音声を止めてもらうようにする。協力者が調査方法を理解できたかどうか,確認するとよい。協力者が発話することに慣れたら,調査を開始する。

(7) 調査を開始する

練習した方法で発話してもらう。

(8) 休憩を挟む

協力者や通訳者がそれほど疲れているように見えなくても,集中力がとぎれないように1時間ほど調査をしたら休憩を入れるようにする。心理的にも肉体的にも負担をかけないようにして,質のよいデータをとることを心がける。

(9) 聞き終わった後の感想を話してもらう

可能なら,協力者に聞き終わった後の感想を話してもらう。

3.2 聞く素材としての会話を録画する方法

調査当日,協力者の希望に合わせて設定された場面の会話をしてもらい,その様子を会話相手の上半身が映るようにビデオ録画する。調査方法説明ビデオの構図を参考にする。会話と録画は次のように行う。

(1) 会話を録画する手順を説明する
(2) 座る位置と機器の配置

協力者と会話相手に,話しやすく自然な態勢で座ってもらう。斜めに向かい合うように座ってもらうとよい。会話の邪魔にならないよう少し離れた位置に三脚とビデオを設置して,会話相手の上半身が映るようにビデオ撮影する。協力者の姿が画面に入らないように注意する。

(3) 会話場面の説明

自然な会話ができるように,協力者と会話相手に,これから行う会話がどのような場面でのものかを説明する。まず,協力者と会話相手が初対面なのか知り合いなのかを確認する。そして,その関係性は崩さないようにしたうえで,協力者の希望を考慮した会話場面を,たとえば次の例のように設定し,伝える。

・初対面の場合の雑談の例
 「協力者と会話相手はそれぞれ調査協力のために研究室に来たが,調査が始まるまで会議室で20分ほど待つように言われた」という設定にする。会議室で二人きりになったので,会話相手から協力者に話しかける。

・知り合いの場合の雑談の例
 協力者は日本語学校を卒業し,専門学校に進学した学生で,会話相手は協力者が通っていた日本語学校の教師である場合,「協力者が久しぶりに日本語学校に来て会話相手に会った」と設定して,会話相手から協力者に話しかける。

(4) 録画時間

会話の状況を見ながら,20分から30分程度を録画する。

(5) 休憩を挟む

会話が終わった後は会話相手には退室してもらう。協力者には休憩を挟んでデータ収集に協力してもらう。

(6) 会話を聞く素材にする

会話後の休憩の間に,録画した会話のビデオをパソコンなどで読み込み,聞く素材とする。その後,「3.4 調査の方法」に従ってデータを収集する。

3.3 調査のときの座る位置と機器の配置

(1) 座る位置

協力者は聞く素材の再生や停止を自分で操作できる位置に座る。データ収集者は協力者の隣に並んで座る。通訳者が参加する場合には,協力者を真ん中に挟むようにしてデータ収集者,協力者,通訳者の3人が並んで座り,聞く素材がビデオのため,それぞれがビデオ画面を見られるようにしておく。

(2) ピンマイクの配置

通訳者が参加しない調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本をデータ収集者の口の近くにつける。

通訳者が参加する調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本を通訳者の口の近くにつける。この場合,データ収集者にはピンマイクがつかないが,データ収集者が大きめの声で話すことで2本のピンマイクに音声が録音される。

(3) ICレコーダーの配置

ピンマイクを付けたICレコーダーは調査の邪魔にならないような場所に配置する。ICレコーダーが2台あるときには,予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,ピンマイクが付いていないほうのICレコーダーを,すべての発話が録音できるようなところに配置する。

3.4 調査の方法

協力者に素材を聞いてもらい,それと同時に理解過程を,母語あるいは母語に準じる言語で少しずつ話してもらう。データ収集者は協力者に聞く素材の内容を確認する質問をし,答えてもらう。(1)から(4)の「発話の例」は,調査では協力者が母語で発話している。

調査は次のように行う。

(1) 素材を聞いてもらい理解過程を話してもらう

聞いてもらうことは,次のようなことである。

a. 聞く素材で話されている内容

聞く素材で話されている内容について理解したことを,たとえば,次のように話してもらう。

  • 聞く素材の例:いつも,昼はどうしてるんですか。
  • 発話の例:「いつも日中は何をしていますか。」
b. 頭の中で考えたこと

そのとき聞いている箇所について感じたことを話してもらう。

  • 聞く素材の例: だから私はお弁当を作ってるんですが、晩ごはん入れるだけで。でも色は気にしてて。
  • 発話の例:「食堂はいつも人が多い,多くないです。「じゃない」と言ったから,否定で、食堂は人が多くないです。でも,あそこの食堂はいつも混んでいるので,別の食堂のことだと思います。」
c. 知らない語句があった時に推測したこと

知らない語句があった時に,その意味をどのように推測したかについて話してもらう。

  • 聞く素材の例: だから私はお弁当を作ってるんですが,晩ごはん入れるだけで。でも色は気にしてて。
  • 発話の例:「お弁当を作っています。晩ごはんを入れます。「イロワキ」は聞いたことがありません。でも,お弁当の話をしているので,多分食べ物の名前だと思います。」
d. わからないことや判断に迷っていること

わからないことや判断に迷っていることなどもそのまま話してもらう。

  • 聞く素材の例: 私は料理をするのが好きなんですが,料理します?
  • 発話の例:「彼女は料理が好きなので,一緒に料理をしましょうか,と言っているのかな。私に料理をするかどうか質問しているのかな。」
e. 聞いている箇所について関連して思い出したこと

そのとき聞いている箇所に関連して思い出したことなどを話してもらう。

  • 聞く素材の例:栄養のバランスがいいので,お弁当に,赤,黄,緑,3色は入れようと思って。
  • 発話の例:「色のバランスがいいので,お弁当に赤色や黄色があります。赤色や黄色はは飾りだと思います。最近日本人はお弁当をかわいく作ると勉強しました。キャラクターのお弁当です。だから、色のことを言ったんだと思います。」
f. 解釈の変更

既に聞いた部分の意味の解釈が変わったときには,聞き進めるにつれてどのように変わってきたかについて話してもらう。

  • 聞く素材の例:いつも昼はどうしてるんですか。食堂って人が多いじゃないですか。だから私はお弁当を作ってて。
  • 発話の例:「さっき,いつも日中は何をしていますかと質問しているといいましたが,それは間違いだと思います。昼ごはんの話をずっとして いるので「昼ご飯は何を食べているのか」と質問したんだとわかりました。」

理解したことを話してもらうときには,聞く素材の1文単位で言ってもらう必要はなく,発話しやすい語句レベルに区切って言ってもらってもよい。

協力者が沈黙している時間が長いとき,「何を考えていますか」「どこが難しいですか」などと話しかけるようにして,頭の中で考えていることをいろいろ話してもらう。

(2) 質問に答えてもらう

協力者の発話だけではどのような意味に理解したかがよくわからないときや,協力者が言及しなかった点があるとき,それを確認するために協力者に質問をし,答えてもらう。協力者は理解したことすべてを話すわけではないため,データ収集者は協力者の発話をよく聞いて柔軟に対応する。

聞く素材の中で協力者にとって難しいと思われる箇所を事前に予測しておくが,それについての質問は協力者の反応を見ながら,その場で臨機応変に行う。質問は協力者の思考を妨げないように状況をよく見て行う。

データ収集者が聞く素材の中の語句に言及するときは,聞く素材を巻き戻して聞いてもらう。巻き戻しが難しい場合は,その語句を言ってもよい。

協力者が自分の理解したことを説明したときに,「なぜそう思いましたか」のように質問をして,協力者の理解過程を明らかにするように心がける。協力者が間違ったことを言ったときだけではなく,難しいと思われた箇所について正しく理解できたときにもそのように質問する。

(3) 通訳者にデータ収集者と協力者の発話をすべて通訳してもらう

通訳者が参加する調査の場合,発話をすべて同時通訳に近い形で通訳してもらう。

[B 対話型] 4.調査をうまく進めるためのポイント

4.1  話しやすい雰囲気をつくる

調査はデータ収集者と協力者が基本的に1対1で行うため,友好的な関係が築けるように心がける。調査の本番前に行う練習のときには,「それでいいですよ」「上手ですね」のように,肯定的で勇気づけることばをかけるようにし,安心して発話してもらう環境をつくる。

4.2 調査の本番前の練習を効果的に行う

協力者にとって素材を聞きながら同時に理解したことを言語化するのは慣れるまで難しいこともある。そのため,調査の前の練習は大切である。協力者がする発話のモデルを示すときには,調査方法説明ビデオを活用する。

4.3 聞く素材で話されている内容以外のこともたくさん話してもらう

協力者が聞く素材で話されている内容を正確に翻訳することだけに集中して,翻訳以外の発話,たとえば,推測していることやわからないことなどをほとんど言わないことがある。そのようなときには,「この調査は正確に翻訳することが目的ではありません。○○さん(協力者の名前)の理解過程をそのまま知りたいと思っています。ですから,迷ったり,推測したりしていることをそのまま話してください」のように声をかける。

4.4 調査に影響を与えるようなことはしない

データ収集者の発言や行動が調査に影響を与えないように細心の注意を払う。たとえば,質問の答えのヒントになることを言ったり,協力者が間違ったことを言ったときに,間違ったと気づかせるような反応をしたりしない。通訳者にも気をつけてもらう。

4.5 練習のための予備調査をする

データ収集者は,コーパスとして使えるようなよいデータを収集するために,調査方法を十分把握したうえで,練習のための予備調査をある程度行うとよい。

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