「日本語非母語話者の聴解コーパス」には,「A 独話型聴解調査」と「B 対話型聴解調査」の2種類の調査があります。
データ収集者は,調査協力者が聞きたいことや聞く必要があることなどを考慮して,どちらの調査を行うかを決めて下さい。
「日本語非母語話者の聴解コーパス」には,「A 独話型聴解調査」と「B 対話型聴解調査」の2種類の調査があります。
データ収集者は,調査協力者が聞きたいことや聞く必要があることなどを考慮して,どちらの調査を行うかを決めて下さい。
以下の内容はPDF版をダウンロードして読むこともできます。(こちら)
データ収集者はここに示す調査方法に従って調査を行う。調査方法を次の項目に分けて説明する。
日本語非母語話者の協力者を探す。協力者は自身の理解過程を分析的に話せそうな人が望ましい。
次の2つの書類を準備する。
調査協力承諾書には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。
背景調査票には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。
次の4点のようなことについて,協力者に説明する。説明は直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。
「協力者の方へ」(資料1)を協力者に見せて,調査の内容について説明する。
「調査協力承諾書」(書類1)を協力者に読んでもらう。承諾した場合,調査協力承諾書2通に署名してもらう。協力者には署名したものを調査当日に持ってきてもらう。それができない場合には,調査当日に署名してもらう。
署名をした1通はデータ収集者が回収し,もう1通は協力者に渡す。ただし,協力者が調査協力承諾書の所有を希望しない場合には,署名は1通だけでよい。
聞く素材は,協力者自身に選んでもらうため,素材の選び方について説明する。協力者には調査当日に初めて素材を聞いてもらう必要があるため,事前に素材を聞かないように伝えておく。
「背景調査票」(書類2)を調査日より前に協力者に送り,記入しておいてもらう。それができない場合には,調査当日に記入してもらう。
データ収集者は協力者と相談して,調査をする日時と場所を決める。調査のときの発話はICレコーダーで録音するため,エアコンの音や,壁による音の反響などに配慮しつつ,できるだけ雑音が少ない静かな部屋を選ぶ。
可能であれば,データ収集者は協力者と調査日よりも前に顔合わせをし,信頼関係を作っておくと,調査がやりやすくなる。
聞く素材は,(1)から(3)のすべての条件を満たすものを協力者自身に選んでもらう。
協力者に聞きたいものや聞く必要のあるものを選んでもらう。データ収集者が選ぶのではない。協力者には,非母語話者向けに作られた日本語学習用教材は選ばないようにしてもらう。
協力者が自分で適切な聞く素材を見つけるのが難しい場合は,データ収集者が助言してもよい。
聞く素材は協力者の聴解能力にふさわしいものを選んでもらう。
難しすぎると,「わかりません」のような発話ばかりになり,理解過程が把握できなくなる。反対に簡単すぎると,すべてを瞬時に理解するため,知らない語句の意味をどのように推測したかや,解釈がどのように変わっていったかなどについての発話が少なくなる。協力者の発話は,聞く素材で発話されたことをそのまま翻訳したようなものになり,理解過程が把握できなくなる。
この聴解コーパスは,素材とそれを聞いたときの発話を並べて示すものであり,今後,長期間ウェブサイトで公開される。そのため,聞く素材はウェブサイトで長期間公開しても支障がなさそうなものを選んでもらう。たとえば,著作権フリーのものや,ウェブサイトで長期間視聴できそうなものを選んでもらう。
データ収集者は,素材をよく聞き,語句の意味や言われている内容について不明な点があれば調べ,素材の内容の理解に努める。
協力者には,理解過程を母語あるいは母語に準じる言語で少しずつ話してもらう。そのため,通訳者を介さず,データ収集者が直接調査を行う場合は,調査で使用する言語で何と言うかわからない語句などがあれば,訳語を調べておく。
あらかじめ協力者にとって理解するのが難しいと思われる箇所を予測しておく。その箇所を協力者がどのように理解するかを予測したうえで,協力者が理解した内容を確認するためにはどのように質問すればよいかを考えておく。
たとえば,次のような箇所で理解するのが難しいと考えられる。(1)から(5)の「予測される発話の例」は,調査で協力者が母語で発話している箇所とする。
データ収集者が協力者の母語を十分に運用できない場合には,通訳者を手配して参加してもらう。通訳者は会話能力だけではなく,日本語の講義などを正確に理解できる能力がある人を選ぶ。同時通訳に近い形で通訳できる人が望ましい。
通訳者が参加する調査の場合,次の3点について打ち合わせをする。打ち合わせは直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。聞く素材は事前に通訳者に送る。
通訳者に「通訳者の方へ」(資料2)を渡してその内容を説明し,調査の目的や方法,通訳するときの注意点をよく理解してもらう。
データ収集者は質問をする可能性のある箇所について,質問する内容を通訳者に説明する。
通訳者には事前に素材をよく聞いてもらい,通訳する言語で何と言うかわからない語句などがあれば,調査当日までに調べておいてもらう。
次のようなことを準備する。
準備する機器は次のようなものである。
調査のときの発話はICレコーダーで録音する。小さいつぶやきなども明瞭に録音できるようにピンマイクを使用する。協力者とデータ収集者の2人の音声を1台のICレコーダーに録音するために,2本のピンマイクをプラグアダプターに接続する。そのプラグアダプターをICレコーダーのマイク端子に接続する。
予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,可能ならICレコーダーを2台準備する。
データ収集者は,協力者が本番前の練習のときに使用する聞く素材として,実際に調査で使用するものと同じジャンルで,同じぐらいのレベルの聞く素材を準備する。この調査方法に付いている練習用の聞く素材(資料4)を使ってもよい。
データ収集者は,協力者のために聞く素材となる映像ファイルなどとそれを聞くための機材(パソコンなど)を準備する。これとは別に,何かあったときのために,USBなどに予備のファイルを用意しておくとよい。
休憩時間に気分転換をしてもらうために,可能なら,飲み物やお菓子などを準備する。
調査の流れは次のとおりである。
事前に協力者に渡してあった「調査協力承諾書」(書類1)と「背景調査票」(書類2)を回収する。署名や記入がまだされていないときには,その場でしてもらう。
協力者に「調査の前の説明」(資料3)を渡し,目を通してもらう。「調査の前の説明」には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使って説明する。
協力者が調査方法説明ビデオを事前に見ていない場合は,調査方法説明ビデオを見てもらい,聞きながらどのように発話するかを理解してもらう。
協力者に調査に慣れてもらうために,練習用の聞く素材を使って初めに練習してもらう。練習用の聞く素材としては,調査で使用する素材と似ているが,調査で使用しない素材を使うのがよい。よい素材がない場合は,「練習用の聞く素材例」(資料4)を使ってもよい。練習の段階から調査のすべての発話をICレコーダーで録音する。
データ収集者は協力者の素材の聞き方や発話の仕方が適切に行われるように助言する。特に,協力者が聞いたことを忘れてしまうくらい長い時間映像や音声を止めない場合は,覚えていられる時間で映像や音声を止めてもらうようにする。協力者が調査方法が理解できたかどうかを,確認するとよい。協力者が発話することに慣れたら,調査を開始する。
素材を普段聞くときと同じように聞きながら,(4)で練習した方法で発話してもらう。
協力者や通訳者がそれほど疲れているように見えなくても,集中力がとぎれないように1時間ほど調査をしたら休憩を入れるようにする。心理的にも肉体的にも負担をかけないようにして,質のよいデータをとることを心がける。
可能なら,協力者に聞き終わった後の感想を話してもらう。
協力者は聞く素材の再生や停止を自分で操作できる位置に座る。データ収集者は協力者の隣に並んで座る。通訳者が参加する場合には,協力者を真ん中に挟むようにしてデータ収集者,協力者,通訳者の3人が並んで座り,聞く素材がビデオの場合はそれぞれがビデオ画面を見られるようにしておく。
通訳者が参加しない調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本をデータ収集者の口の近くにつける。
通訳者が参加する調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本を通訳者の口の近くにつける。この場合,データ収集者にはピンマイクがつかないが,データ収集者が大きめの声で話すことで2本のピンマイクに音声が録音される。
ピンマイクを付けたICレコーダーは調査の邪魔にならないような場所に配置する。ICレコーダーが2台あるときには,予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,ピンマイクが付いていないほうのICレコーダーを,すべての発話が録音できるようなところに配置する。
協力者に素材を聞いてもらい,それと同時に理解過程を,母語あるいは母語に準じる言語で少しずつ話してもらう。データ収集者は協力者に聞く素材の内容を確認する質問をし,答えてもらう。aからfの「発話の例」は,調査では協力者が母語で発話している。
調査は次のように行う。
聞いてもらうことは,次のようなことである。
聞く素材で話されている内容について理解したことを,たとえば,次のように話してもらう。
そのとき聞いている箇所について感じたことを話してもらう。
知らない語句があったときに,その意味をどのように推測したかについて話してもらう。
わからないことや判断に迷っていることなどもそのまま話してもらう。
そのとき聞いている箇所に関連して思い出したことなどを話してもらう。
既に聞いた部分の意味の解釈が変わったときには,聞き進めるにつれてどのように変わってきたかについて話してもらう。
理解したことを話してもらうときには,聞く素材の1文単位で言ってもらう必要はなく,発話しやすい語句レベルに区切って言ってもらってもよい。
協力者が沈黙している時間が長いときには,「何を考えていますか」「どこが難しいですか」などと話しかけるようにして,頭の中で考えていることをいろいろ話してもらう。
協力者の発話だけではどのような意味に理解したかがよくわからないときや,協力者が言及しなかった点があるとき,それを確認するために協力者に質問をし,答えてもらう。協力者は理解したことすべてを話すわけではないため,データ収集者は協力者の発話をよく聞いて柔軟に対応する。
聞く素材の中で協力者にとって難しいと思われる箇所を事前に予測しておくが,それについての質問は協力者の反応を見ながら,その場で臨機応変に行う。質問は協力者の思考を妨げないように状況をよく見て行う。
データ収集者が聞く素材の中の語句に言及するときは,聞く素材を巻き戻して聞いてもらう。巻き戻しが難しい場合は,その語句を言ってもよい。
協力者が自分の理解したことを説明したときに,「なぜそう思いましたか」のように質問をして,協力者の理解過程を明らかにするように心がける。協力者が間違ったことを言ったときだけではなく,難しいと思われた箇所について正しく理解できたときにもそのように質問する。
通訳者が参加する調査の場合,発話をすべて同時通訳に近い形で通訳してもらう。
調査はデータ収集者と協力者が基本的に1対1で行うため,友好的な関係が築けるように心がける。調査の本番前に行う練習のときには,「それでいいですよ」「上手ですね」のように,肯定的で勇気づけることばをかけるようにし,安心して発話してもらう環境をつくる。
協力者にとって素材を聞きながら同時に理解したことを言語化するのは慣れるまで難しいこともある。そのため,調査の前の練習は大切である。協力者がする発話のモデルを示すときには,調査方法説明ビデオを活用する。
協力者が聞く素材で話されている内容を正確に翻訳することだけに集中して,翻訳以外の発話,たとえば,推測していることやわからないことなどをほとんど言わないことがある。そのようなときには,「この調査は正確に翻訳することが目的ではありません。○○さん(協力者の名前)の理解過程をそのまま知りたいと思っています。ですから,迷ったり,推測したりしていることをそのまま話してください」のように声をかける。
データ収集者の発言や行動が調査に影響を与えないように細心の注意を払う。たとえば,質問の答えのヒントになることを言ったり,協力者が間違ったことを言ったときに,間違ったと気づかせるような反応をしたりしない。通訳者にも気をつけてもらう。
データ収集者は,コーパスとして使えるようなよいデータを収集するために,調査方法を十分把握したうえで,練習のための予備調査をある程度行うとよい。
以下の内容はPDF版をダウンロードして読むこともできます。(こちら)
データ収集者はここに示す調査方法に従って調査を行う。調査方法を次の項目に分けて説明する。
日本語非母語話者の協力者を探す。協力者は自身の理解過程を分析的に話せそうな人が望ましい。
次の2つの書類を準備する。
調査協力承諾書には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。
背景調査票には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使う。
次の4点のようなことについて,協力者に説明をする。説明は直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。
「協力者の方へ」(資料1)を協力者に見せて,調査の内容について説明する。
「調査協力承諾書」(書類1)を協力者に読んでもらう。承諾した場合,調査協力承諾書2通に署名してもらう。協力者には署名したものを調査当日に持ってきてもらう。それができない場合には,調査当日に署名してもらう。
署名をした1通はデータ収集者が回収し,もう1通は協力者に渡す。ただし,協力者が調査協力承諾書の所有を希望しない場合には,署名は1通だけでよい。
対話型聴解調査では,協力者自身に当事者となって会話をしてもらう。その会話相手の発話が後の調査で聞く素材となることを説明する。このとき,聞く素材としての会話相手の発話が,協力者の聞きたいものや聞く必要のあるものとなるように,会話の場面についての希望を協力者に聞いておくとよい。
準備の詳細は,「2.7 聞く素材としての会話を録画するための準備」で述べる。また,聞く素材としての会話を録画する方法については「3.2 聞く素材としての会話を録画する方法」で述べる。
「背景調査票」(書類2)を調査日より前に協力者に送り,記入しておいてもらう。それができない場合には,調査当日に記入してもらう。
データ収集者は協力者と相談して,調査をする日時と場所を決める。調査のときの発話はICレコーダーで録音するため,エアコンの音や,壁による音の反響などに配慮しつつ,できるだけ雑音が少ない静かな部屋を選ぶ。
可能であれば,データ収集者は協力者と調査日よりも前に顔合わせをし,信頼関係を作っておくと,調査がやりやすくなる。
データ収集者が協力者の母語を十分に運用できない場合には,通訳者を手配して参加してもらう。通訳者は会話を正確に理解できる能力がある人を選ぶ。同時通訳に近い形で通訳できる人が望ましい。
通訳者に「通訳者の方へ」(資料2)を渡してその内容を説明し,調査の目的や方法,通訳するときの注意点をよく理解してもらう。打ち合わせは直接会って行っても,メールなどで行ってもよい。
次のようなことを準備する。
準備する機器は次のようなものである。
調査のときの発話はICレコーダーで録音する。小さいつぶやきなども明瞭に録音できるようにピンマイクを使用する。協力者とデータ収集者の2人の音声を1台のICレコーダーに録音するために,2本のピンマイクをプラグアダプターに接続する。そのプラグアダプターをICレコーダーのマイク端子に接続する。
予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,可能ならICレコーダーを2台準備する。
休憩時間に気分転換をしてもらうために,可能なら,飲み物やお菓子などを準備する。
協力者自身に当事者となって会話をしてもらい,その会話を会話相手の上半身が映るようにビデオ録画する。この場合,聞く素材としての会話の録画は調査当日に行うが,事前に(1)から(4)のような準備が必要である。
協力者の会話相手を探す。会話相手は協力者が希望する場合での会話ができる人で,日本語非母語話者相手でも不自然な日本語になったり外国語を混ぜたりせず,できるだけ自然な話し方のできる人が望ましい。
次の書類を準備する。
・会話相手用調査協力承諾書(書類3) 2通
会話相手用承諾書は日本語版のみである。
会話相手に「会話相手の方へ」(資料5)を渡してその内容を説明し,調査の目的や方法,会話をするときの注意点をよく理解してもらう。
会話相手に「会話相手用調協力査承諾書」(書類3)を読んでもらう。承諾した場合,「会話相手用調査協力承諾書」2通に署名してもらう。協力者には署名したものを調査当日に持ってきてもらう。それができない場合には,調査当日に署名してもらう。
署名をした1通はデータ収集者が回収する。もう1通は協力者に渡す。ただし,協力者が調査協力承諾書の所有を希望しない場合には,署名は1通だけでよい。
調査の流れは次のとおりである。
事前に協力者に渡してあった「調査協力承諾書」(書類1)と「背景調査票」(書類2)を回収する。署名や記入がまだされていないときには,その場でしてもらう。
事前に会話相手に渡してあった「会話相手用調査協力承諾書」(書類3)を回収する。署名がまだされていないときには,その場でしてもらう。
協力者と会話相手に会話をしてもらう。録画の際はカメラを会話相手だけに向け,協力者は写さない。録画した会話は(7)の調査で使用する「聞く素材」となる。また,(6)の練習のため,データ収集者と協力者の短い会話も録画しておく。
協力者に「調査の前の説明」(資料3)を渡し,目を通してもらう。「調査の前の説明」には日本語版,英語版,中国語版,韓国語版,ミャンマー語版がある。協力者に応じて,そのどれかを使って説明する。
協力者が調査方法説明ビデオを事前に見ていない場合は,調査方法説明ビデオを見てもらい,聞きながらどのように発話するかを理解してもらう。
協力者に調査に慣れてもらうために,初めに練習してもらう。練習用の聞く資材は,調査で使用しない素材を使うのがよい。そのため,(3)で練習用に録画したデータ収集者と協力者との短い会話を使用する。聞く素材は会話相手の発話部分のみで,協力者の日本語の発話箇所は聞く素材ではない。練習もすべての発話をICレコーダーで録音する。
データ収集者は協力者の素材の聞き方や発話の仕方が適切に行われるように助言する。特に協力者が聞いたことを忘れてしまうくらい長い時間,映像や音声を止めない場合,覚えていられる時間で映像や音声を止めてもらうようにする。協力者が調査方法を理解できたかどうか,確認するとよい。協力者が発話することに慣れたら,調査を開始する。
練習した方法で発話してもらう。
協力者や通訳者がそれほど疲れているように見えなくても,集中力がとぎれないように1時間ほど調査をしたら休憩を入れるようにする。心理的にも肉体的にも負担をかけないようにして,質のよいデータをとることを心がける。
可能なら,協力者に聞き終わった後の感想を話してもらう。
調査当日,協力者の希望に合わせて設定された場面の会話をしてもらい,その様子を会話相手の上半身が映るようにビデオ録画する。調査方法説明ビデオの構図を参考にする。会話と録画は次のように行う。
協力者と会話相手に,話しやすく自然な態勢で座ってもらう。斜めに向かい合うように座ってもらうとよい。会話の邪魔にならないよう少し離れた位置に三脚とビデオを設置して,会話相手の上半身が映るようにビデオ撮影する。協力者の姿が画面に入らないように注意する。
自然な会話ができるように,協力者と会話相手に,これから行う会話がどのような場面でのものかを説明する。まず,協力者と会話相手が初対面なのか知り合いなのかを確認する。そして,その関係性は崩さないようにしたうえで,協力者の希望を考慮した会話場面を,たとえば次の例のように設定し,伝える。
・初対面の場合の雑談の例
「協力者と会話相手はそれぞれ調査協力のために研究室に来たが,調査が始まるまで会議室で20分ほど待つように言われた」という設定にする。会議室で二人きりになったので,会話相手から協力者に話しかける。
・知り合いの場合の雑談の例
協力者は日本語学校を卒業し,専門学校に進学した学生で,会話相手は協力者が通っていた日本語学校の教師である場合,「協力者が久しぶりに日本語学校に来て会話相手に会った」と設定して,会話相手から協力者に話しかける。
会話の状況を見ながら,20分から30分程度を録画する。
会話が終わった後は会話相手には退室してもらう。協力者には休憩を挟んでデータ収集に協力してもらう。
会話後の休憩の間に,録画した会話のビデオをパソコンなどで読み込み,聞く素材とする。その後,「3.4 調査の方法」に従ってデータを収集する。
協力者は聞く素材の再生や停止を自分で操作できる位置に座る。データ収集者は協力者の隣に並んで座る。通訳者が参加する場合には,協力者を真ん中に挟むようにしてデータ収集者,協力者,通訳者の3人が並んで座り,聞く素材がビデオのため,それぞれがビデオ画面を見られるようにしておく。
通訳者が参加しない調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本をデータ収集者の口の近くにつける。
通訳者が参加する調査の場合は,2本のピンマイクのうち,1本を協力者の口の近くにつけ,もう1本を通訳者の口の近くにつける。この場合,データ収集者にはピンマイクがつかないが,データ収集者が大きめの声で話すことで2本のピンマイクに音声が録音される。
ピンマイクを付けたICレコーダーは調査の邪魔にならないような場所に配置する。ICレコーダーが2台あるときには,予期しないトラブルが生じた場合でも録音ができているように,ピンマイクが付いていないほうのICレコーダーを,すべての発話が録音できるようなところに配置する。
協力者に素材を聞いてもらい,それと同時に理解過程を,母語あるいは母語に準じる言語で少しずつ話してもらう。データ収集者は協力者に聞く素材の内容を確認する質問をし,答えてもらう。(1)から(4)の「発話の例」は,調査では協力者が母語で発話している。
調査は次のように行う。
聞いてもらうことは,次のようなことである。
聞く素材で話されている内容について理解したことを,たとえば,次のように話してもらう。
そのとき聞いている箇所について感じたことを話してもらう。
知らない語句があった時に,その意味をどのように推測したかについて話してもらう。
わからないことや判断に迷っていることなどもそのまま話してもらう。
そのとき聞いている箇所に関連して思い出したことなどを話してもらう。
既に聞いた部分の意味の解釈が変わったときには,聞き進めるにつれてどのように変わってきたかについて話してもらう。
理解したことを話してもらうときには,聞く素材の1文単位で言ってもらう必要はなく,発話しやすい語句レベルに区切って言ってもらってもよい。
協力者が沈黙している時間が長いとき,「何を考えていますか」「どこが難しいですか」などと話しかけるようにして,頭の中で考えていることをいろいろ話してもらう。
協力者の発話だけではどのような意味に理解したかがよくわからないときや,協力者が言及しなかった点があるとき,それを確認するために協力者に質問をし,答えてもらう。協力者は理解したことすべてを話すわけではないため,データ収集者は協力者の発話をよく聞いて柔軟に対応する。
聞く素材の中で協力者にとって難しいと思われる箇所を事前に予測しておくが,それについての質問は協力者の反応を見ながら,その場で臨機応変に行う。質問は協力者の思考を妨げないように状況をよく見て行う。
データ収集者が聞く素材の中の語句に言及するときは,聞く素材を巻き戻して聞いてもらう。巻き戻しが難しい場合は,その語句を言ってもよい。
協力者が自分の理解したことを説明したときに,「なぜそう思いましたか」のように質問をして,協力者の理解過程を明らかにするように心がける。協力者が間違ったことを言ったときだけではなく,難しいと思われた箇所について正しく理解できたときにもそのように質問する。
通訳者が参加する調査の場合,発話をすべて同時通訳に近い形で通訳してもらう。
調査はデータ収集者と協力者が基本的に1対1で行うため,友好的な関係が築けるように心がける。調査の本番前に行う練習のときには,「それでいいですよ」「上手ですね」のように,肯定的で勇気づけることばをかけるようにし,安心して発話してもらう環境をつくる。
協力者にとって素材を聞きながら同時に理解したことを言語化するのは慣れるまで難しいこともある。そのため,調査の前の練習は大切である。協力者がする発話のモデルを示すときには,調査方法説明ビデオを活用する。
協力者が聞く素材で話されている内容を正確に翻訳することだけに集中して,翻訳以外の発話,たとえば,推測していることやわからないことなどをほとんど言わないことがある。そのようなときには,「この調査は正確に翻訳することが目的ではありません。○○さん(協力者の名前)の理解過程をそのまま知りたいと思っています。ですから,迷ったり,推測したりしていることをそのまま話してください」のように声をかける。
データ収集者の発言や行動が調査に影響を与えないように細心の注意を払う。たとえば,質問の答えのヒントになることを言ったり,協力者が間違ったことを言ったときに,間違ったと気づかせるような反応をしたりしない。通訳者にも気をつけてもらう。
データ収集者は,コーパスとして使えるようなよいデータを収集するために,調査方法を十分把握したうえで,練習のための予備調査をある程度行うとよい。