「日本語非母語話者の読解コーパス」は,日本語非母語話者に日本語で書かれたものを読んでもらいながら,その理解過程を母語か母語に準じる言語で話してもらい,それを文字化し,日本語訳をつけたものです。
「日本語非母語話者の読解コーパス」の概要
調査の方法
日本語非母語話者である協力者に日本語で書かれたものを読んでもらいます。それと同時に理解過程を母語あるいは母語に準じる言語で少しずつ話してもらいます。
データ収集者は協力者の発話を聞き,その発話だけではどのような意味に理解したかがよくわからないときや,言及されなかった点を確認するために,協力者に質問をし,答えてもらいます。
データ収集者は,協力者が読みながら辞書やパソコンなどを使った場合,どのようなことをどのように調べたかという過程を記録します。
データ収集者が協力者の話す言語を十分に運用できない場合は,通訳者に参加してもらいます。
このコーパスの特徴
このコーパスの特徴は次のとおりです。(1)理解のコーパスである
このコーパスは読みながら同時にどのように理解しているかという理解過程の記録を目的とした「理解」のコーパスです。 従来から作成されてきた会話コーパスや作文コーパスのように,話したことや書いたことの記録を目的とした「産出」のコーパスとは性質を異にします。
(2)協力者が選んだ素材を読んでもらった記録である
協力者に読みたいものや読む必要のあるものを選んでもらい,それを読んでもらった記録です。読んでもらうものは協力者に選んでもらったものであって,データ収集者によって与えられたものではありません。 非母語話者向けに書かれた日本語教科書などの日本語学習用教材は含まれていません。
読む素材はたとえば次のようなものです。
- チラシ・パンフレット類,商品の説明書,掲示物
- メール,ウェブサイト
- 新聞,書籍,学術論文
(3)辞書などを使ってよいとして読んでもらった記録である
協力者は辞書などを使ってよいと指示して読んでもらった記録です。普段,辞書やパソコン,スマートフォンなどを使って読んでいる協力者には,この調査でも普段と同じように使って読んでもらいました。辞書やパソコンなどを使った場合は,辞書などでどの語を見て,そこからどのような過程を経て最終的にどのような意味に理解したかが記録されています。
(4)理解した内容を話してもらうだけではなく,質問にも答えてもらった記録である
協力者に理解した内容を話してもらうだけではなく,データ収集者からの質問にも答えてもらった記録です。協力者の発話だけではどのような意味に理解したかがよくわからないときや,協力者が言及しなかった点があるとき,それを確認するために協力者に質問をし,答えてもらいました。
(5)理解した内容だけではなく,どのように読んでいるかを話してもらった記録である
読みながら理解した内容だけではなく,頭の中でどのようなことを考えながら読んでいるかを,協力者に詳しく話してもらった記録です。たとえば,文脈を手がかりにして知らない語の意味をどのように推測したかや,既に読んだ部分の意味の解釈が読み進めるにつれてどのように変わっていったかについても話してもらいました。
(6)日本語ではなく,協力者の母語で理解過程を話してもらった記録である
協力者が十分に日本語を運用できても,日本語ではなく,母語か母語に準じる言語で理解過程を話してもらった記録です。母語で話してもらうのは,日本語で話すと,意味がわからなくても日本語で読みあげることができるため,どのような意味に理解したかが確認できないからです。